不況によってこれまでの業界のパワーバランスに変化が起きる。
現在は業界再編が起こりやすいタイミングにあるのだ。
歴史を振り返れば、最高のM&Aは景気後退期に成立していることは軽視できない事実である。
TSR(総株主投資利回り)で測ると、
景気後退期のM&Aの方が、好況期のM&Aよりも約15%高く、
それによって生まれる価値が大きいということがわかる。
このチャンスを生かすためには、日頃から競合他社の財務面と業務面の健全性についてを詳細に監視しておくことだ。
不況期に眠るチャンス、恩恵を得られるだけの体力がない企業や、銀行の貸し渋りによって資金繰りに行き詰っている企業は、こちらからの合併提案を歓迎してくれるところもあるだろう。
できれば、慎重さと迅速さを要するこの時期、友好的な買収によって業界が再編されることが双方にとって望ましい。
しかし、ときに大胆な手を打つことも合理的である。敵対的買収である。
2001年、米国において9.11同時多発テロが発生した後、観光業界は壊滅的な打撃を受けた。
テロ事件の数週間後、世界最大のクルーズ・バケーション会社であるカーニバルは
当時、業界第二位のロイヤルカリビアンインターナショナルと業界第三位のP&Oプリンセスクルーゼズが計画していた友好的合併に横槍を入れた。
第三位のP&OプリンセスにTOB(株式の公開買い付け)を仕掛けたのだ。
P&Oプリンセスの株主はこの提案を受け入れ、およそ15ヶ月後にカーニバルの買収は成功した。
この買収の発表から完了を経た後、カーニバルのTSRは何年にもわたってS&P500指数を大幅に上回った。
カーニバルは大胆にも戦略上、有意義な一手を打つ事に成功したのだった。
ただもちろん、買収をすれば、相手のマイナス要因も背負うことになる。
したがって、景気後退期には被買収企業の現在および将来の手元資金に関するデュー・ディリジェンスがたいへん重要になってくるのだ。
その情報を生かすことが、不況期の企業買収リスクを抑えることになるだろう。