卓越した企業というものは、景気後退を生き抜くことだけが使命とはしていない。
不況を賢く生き残りながら、次に訪れる景気回復期をにらみ、さらなる利益拡大に向かって態勢を整える。
現在のように不況の真っ只中で、製品開発やITや生産技術などの分野に投資しても、
多くの場合はすぐには実を結ばず、不況が過ぎ去った後に実を結ぶ。
よって、消極的になりがちなこれらの投資だが、ここで二の足を踏むと、景気回復期に訪れるチャンスを生かす能力が損なわれかねない上、他社とくらべて優位に立つことは難しいだろう。
今なら、経営資源をめぐる競争が沈静化しているため、投資コストも安くつく。判断を誤らなければ、今だからこそ手にすることができるチャンスも必ずあるものだ。
現状の財務的制約を考慮すれば、ほとんどの投資に手を出せなくなるだろうが、しかしだからといって
大型投資案件をすべて見送るというのは間違いだ。
さまざまな選択肢に優先順位をつけ、長期的に見て自社の健全性や成長を大きく左右しそうな投資は残し、プラスの成果が得られるか不透明な投資は先送りする。また、将来の成功に必ずしも不可欠ではないようなプロジェクトは中止するというように、いまいちど選別作業をしてみることだ。
不況期の賢明な投資によって、成功した事例を紹介しよう。
米アップルである。
アップルは2001~2003年の不況期に入った頃、経営状況はそれほど良好ではなかった。
例えば2001年は前年比33%の減収を記録していた。思わしくない状況であった。
にもかかわらず、同社は2001年に※R&D費(研究開発費)を13%増やした。
※(R」はResearch(研究)、「D」は
これを対売上高比で見ると、2000年は5%を下回っていたが、2001年には約8%となった。この水準を2年間維持したのである。
その結果、アップルは2003年までにiTunes(ソフトウェア)とiTunesストアをリリースし、2004年にはipodミニとipodフォトを発売した。ここから同社の快進撃が始まったのだった。
その後も、ipodの新モデルを発売し次々とヒットさせた。
的確な投資は後に利益を生むということを肝に銘じ、時には大胆な決断を下すことも大切ではないだろうか。
また、景気後退期というのは、経営陣の質を改善したり、優秀な人材をヘッドハントしたりと、人材に投資するチャンスでもある。
優秀な人材の争奪戦も比較的穏やかなこの時期というのは、通常時よりも低いコストで獲得できるチャンスでもある。
真っ先に経営の安定化や財務基盤の強化に取り組んだ企業だけが、こうした不況期のチャンスに向かい合うことができるのである。